【読書感想文】こそあどの森の物語①ふしぎな木の実の料理法【岡田淳】

こそあどの森の物語1ふしぎな木の実の料理法 読書感想文

※このブログ記事は本要約ではなく、あくまで本を読んだ個人的感想です。ネタバレを含みますのでご注意下さい。

小学生の頃に学校の図書館で出会い、大人になった今でも定期的に読み返す児童書、こそあどの森の物語①ふしぎな木の実の料理法(作:岡田淳)の読書感想文を書きます。

去年、久しぶりに読み返して心がキューっとなったので、これはブログにでも書き残しておかなければと思いました。

この物語のざっくりとしたあらすじ。

「この森でもなければ その森でもない あの森でもなければ どの森でもない こそあどの森 こそあどの森」こそあどの森の住人であるスキッパーは、無口で恥ずかしがり屋さん。ある日スキッパーの元に、一通の手紙が届きます。手紙と一緒に送られてきたのは“ポアポア”という見たことのない木の実でした。しかし、料理法が書かれているはずの手紙の一部が濡れて滲んでしまい、食べ方が分かりません。どうやら森の住人の誰かが料理法を知っているようです。スキッパーは渋々、森の住人達の元を訪ねることにしました。

主人公のスキッパーというのが、表紙のウニのような頭をした少年です。謎の木の実ポアポアと滲んだ手紙を持って、途方に暮れていますね。

スキッパーはこそあどの森にあるウニマルという家に住んでいます。巨大なウニが船に乗っているような感じの見た目なのですが、この挿絵が見ているだけでワクワクするので時間のある方は是非実物をご覧頂きたい。私は小学生の頃ウニマルに住みたいとずっと思ってました。

ウニマルでのスキッパーの暮らしぶりときたら、『ウニマルから外に出たのも数えるほどしかありません。それも、ストーブでもやしたまきの灰をすて、新しいまきを林のなかの小屋にとりにいっただけです。あとは本を読み、石や貝、そして化石の標本をながめ、晴れた夜には望遠鏡で星をみ、ホットケーキを焼き、缶づめをあけ、お茶をわかし、空想にふけるだけの、静かで平和な生活だったのです。※本文より引用』という、内向型人間のFIRE後の理想の生活みたいな毎日を送っています。今思えば、私はウニマルに住みたいというより、このライフスタイルに憧れていたのかもしれません。

さて、手紙の送り主である博物学者のバーバさんはスキッパーと一緒にウニマルに住んでいるのですが、普段は旅に出ていることの方が多いようです。世界中を旅していて、今回は旅先で見つけた美味しい木の実をスキッパーの元に送ってくれたというわけですね。

しかし、料理法が書かれた手紙が読めない。

滲んだ手紙

狙ったように大事なところが滲んでしまってますね。

これがスキッパーの平和な日々をぶち壊します。彼はとにかく内気で人とのコミュニケーションが不得意。なのに料理法を知る森の住人を探して聞けと。これ、手紙が滲んでなかったとしてもなかなかのハードミッションだと思います。

一応バーバさんにもう一度手紙を送ってもらうように手配したのですが、なにしろ遠方からの手紙なので返事はいつになるのか分かりません。

最初のうちは無視を決め込もうとするスキッパーですが、生活のあらゆる場面でポアポアのことを思い出してしまいます。ポアポアが気になってしまい大好きな空想も捗りません。

そしてついに重い腰を上げ森の住人達の元を訪ねて行くところから物語が動き出します。

この物語の肝は、森の住人達を訪れて行く中でスキッパーの心の中に変化が起こっていくところです。

初めのうちは本当に嫌々、トマトさんとポットさんの家を訪問します。トマトさんは森の住人一の料理上手。ポットさんはトマトさんのパートナーです。ポットさんは配達員のドーモさんと一緒にウニマルにポアポアを運ぶ手伝いをしたことから今回の事情を知ってくれています。

それにしてもスキッパー、人見知りとはいえどう考えても人の家に上がる態度じゃないです。子供の頃読んでいた時はあまり不思議に思わなかったのですが、トマトさんもポットさんも面倒見良過ぎません?!

結局料理法は分からないまま、トワイエさん、ギーコさんとスミレさん、ふたご、思い当たる全ての家に行くことになります。

その過程でスキッパーなりに、事情を知らないだろうから濡れた手紙を持って行こう、説明出来るように台詞を練習して行こうと工夫をしていきます。徐々にコミュ力が上がっていってる!がんばれスキッパー!

中でも私が特に好きなやりとりが、湖の巻貝の家に住むふたごちゃんとの場面です。ふたごちゃんの名前はアップルとレモン。天真爛漫なこのふたごちゃんは、今回はアップルとレモンという名前ですが、気分で自分の名前を変えます。それが最高なんですよね。私もそんな生き方がしたいです。

スキッパーが来るとアップルはアップルティー、レモンはレモンティーを淹れておもてなしをしてくれます。何気ないことですがスキッパーからしたら究極の選択ではないでしょうか。とりあえず片方を一口飲むと「こっちを飲んだ!」と言われ、慌ててもう一方を飲むと「こっちは二口だった!」なんて言われてしまいます。このやりとりがなんだか可愛い。

ふたごちゃんが試した、料理法については無理筋過ぎてスキッパーもこの顔です。

面食らうスキッパー

結局思い当たる人全員にあたったのですが、ポアポアの料理法は分かりませんでした。

その後スキッパーは雪の森で足跡を見つけます。もしかしたらこの足跡の主が料理法を知っているかもしれない!と考えたスキッパーは足跡を辿って行くことにしました。どんどんアクティブになってますね。ところが途中で雪が降ってきてしまい足跡が消え、森の中で迷子になってしまいます。このシーンを読んでいて、かつて子供ながらに不安になったな〜と懐かしくなりました。「やらかした!」っていう時に、大人に忠告されていた言葉が脳内でリフレインする感じがとてもリアルです。

結果的に無事に森から帰って来ることができたわけですが、今度こそ本当にあてがなくなってしまいました。

スキッパーはまたしばらくどこにも行かずにウニマルで過ごすことになります。ここのシーンが心がキューっとなったところなのですが、なんとスキッパー、ちょっと人恋しくなってます。

以前と違って、化石を見ながら想像する世界にこの森で出会った人達が登場するようになりました。さらには、あの慌ただしかった日々のことを思い出す時間も加わったのです。これは内向型あるあるだと私は思っているのですが、人と会った後ってしばらくその日のことを反芻しちゃうんですよね。特にずっと自分の世界に引きこもっていたスキッパーには脳への刺激が強かったんじゃないかなと想像します。それぞれの人の言葉や仕草を生活の合間にふっと思い出す感じよく分かります。

それでもスキッパーは決してネガティブな気持ちではなく、あの人は今どうしているのだろう?なんて考えたりするようになります。そして訪ねて行こうかな?なんて思った自分に驚いたりしている。以前はドーモさんとポットさんが喋りまくっているのを聞いて『ウニマルの屋根にふるどしゃぶりの雨よりやかましかった』とか思ってたのに…。

訪ねて行こうかな?なんて思うも、訪ねていく理由が無い。ここがなんだか切ないんです。本当は理由なんてなんだっていいんだよ。別にこの間のお礼でとか、ホットケーキ作り過ぎたからとか、なんでもない理由でいいんだよスキッパー。少なくとも忙しい現代社会じゃないんだから、と思ったところで、そういう自分は理由無く訪ねていける人っていないなぁと寂しくなったりもしました。なんだか人と人のコミュニケーションの根本みたいなものを考えてしまいますね。

『もしもだれかがたずねてきてくれれば、こんどはぼくがお茶をいれてあげるのに』

この言葉に心境の変化の全てが詰まっているんじゃないかと思います。自分から行く勇気はないけど、向こうが来てくれたら喜んで受け入れるのに…。受け身な姿勢ではありますが、人との関わりを求め始めている。自己完結の世界から外に出てみて、人の温かみみたいなものに触れると、今まで育ててきた自分の世界が簡単に揺らぐんです。そういう優しさが森の住人達にはあったんじゃないかと思います。お茶なんて愛みたいなものじゃないですか。

で、結局ポアポアはどうなったのさ!という話ですが、流石にネタバレが過ぎるので気になる方は是非実際にこの本を読んでみてほしいです。ラストシーンがほっこりとしていて温かい読後感です。


読書感想文第一弾を何にしようか迷ったのですが、私が読書好きになったきっかけのこの本にしてみました。実は小学生の頃、本の感想を作者様に送ろうと思って手紙を書いたのですが、手紙の出し方が分からなかったので結局出さずじまいでした。理由が無知過ぎる。こんなんじゃ、なんの物語も始まりません。

申し遅れました。鷲原和白(わしはらわしろ)と申します。好きなこそあどの森の物語シリーズは「ユメミザクラの木の下で」です。


4巻なのでだいぶ先になりますが、いつか読書感想文を書こうと思ってます。

コメント

  1. こそあどの森の物語……アップルとレモン……おぼろげよりも薄い記憶ですが、読んだことあると思い出しました。自分の世界が広がっていく過程が物語になっているなんて当時は分からなかった……。
    和白さんの大人目線の読書感想文を読んで、大人になってからの読書って「あれ読んだ」「これ読んでこう思った」と”経験”の一種にしやすいけど、子どもの頃に読んだ本はよほどのことがない限り覚えてないけど知らないうちに自分自身に染み込んでるよな~って思いました。

    • ゆめにゃさんも読んだことありましたか!なんだか嬉しいです。
      私も当時はそこまで深く考えずにストーリーを楽しんでました。
      知らないうちに自分自身に染み込んでる、って本当にその通りですね。
      もしかしたら今読んでいる本も同じかもしれませんね。

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